骨盤底筋群とは
骨盤底筋群は、骨盤の底にハンモックのように広がる筋肉の総称です。これらの筋肉は、恥骨、坐骨、尾骨に囲まれた骨盤の出口を塞いでおり、主に3つの層に分かれています。
これらの筋肉は、内臓の重みを支えたり、排泄をコントロールしたり、性機能に関わったりと、私たちの健康を維持するために欠かせない重要な役割を担っています。
骨盤底筋群の3つの層
骨盤底筋群は、いくつかの筋肉が複雑に組み合わさってできています。大きく分けて、表層、中間層、深層の3つの層に分類されます。
1. 表層(最も外側)
主に尿道、膣、肛門の周りを囲む筋肉で、排泄のコントロールに大きく関わります。具体的には、外肛門括約筋や球海綿体筋などがこの層に含まれます。
- 外肛門括約筋: 肛門を意識的に締めたり緩めたりする働きをします。
- 球海綿体筋: 女性では尿道や膣の収縮を助け、男性では陰茎の勃起や射精に関与します。
2. 中間層
尿道括約筋などがあり、尿道の開閉を制御する働きをします。
3. 深層(最も内側)
骨盤底筋群の大部分を占める層で、肛門挙筋(腸骨尾骨筋、恥骨尾骨筋、坐骨尾骨筋)と呼ばれる筋肉で構成されています。この層が骨盤内の臓器(膀胱、子宮、直腸など)をハンモックのように下から支える、最も重要な役割を担っています。
骨盤底筋群の重要な役割
骨盤底筋群には主に4つの重要な働きがあります。
1. 内臓の支持機能
骨盤底筋群の最も基本的な役割は、骨盤内にある臓器(膀胱、子宮、直腸など)を下から支えることです。重力や腹圧に逆らって、これらの臓器が下にずり落ちないように保持しています。この機能が低下すると、骨盤臓器脱(膀胱や子宮などが膣から下垂する状態)を引き起こす可能性があります。
2. 排泄のコントロール機能
尿道と肛門を意識的に締めたり緩めたりすることで、排尿や排便をコントロールします。この機能が弱くなると、尿もれ(尿失禁)や便失禁が起こりやすくなります。咳やくしゃみ、ジャンプなどの腹圧がかかる動作で尿が漏れる腹圧性尿失禁は、骨盤底筋群の機能低下が主な原因の一つです。
3. 姿勢の安定と体幹との連動
骨盤底筋群は、横隔膜、腹横筋、多裂筋といった他の深層筋と連携し、腹腔内圧を調整しています。これにより、脊椎や骨盤の安定性を高め、良い姿勢を維持したり、腰痛を予防したりする働きも担っています。
骨盤底筋群は、出産、加齢、閉経、過度な腹圧(慢性的な咳や便秘など)、激しいスポーツなどによって弱まることがあります。機能が低下すると、上記で述べたような様々な不調(尿もれ、骨盤臓器脱、腰痛など)につながることがあります。
また、間違った使い方、柔軟性の低下によっても機能低下を引き起こします。
研究においても、骨盤底筋トレーニングが近年注目されている一方で、正しい方法で行うことが難しいという課題が指摘されています。不適切なトレーニングは、尿失禁や骨盤臓器脱といった骨盤底機能障害を悪化させ、生活の質を低下させる可能性があります。
骨盤底筋の機能解剖や運動機能を理解し、障害の予防・改善のための評価方法とトレーニングを普及させることが重要です。特に、適切な指導ができる専門家の重要性が唱えられています。
骨盤底筋トレーニングのための基礎と実践 田舎中 真由美1*,青木 芳隆2
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/71/3/71_255/_pdf/-char/ja
更年期障害や出産など、
女性のライフステージと骨盤底筋群の関係
更年期や出産は、女性の骨盤底筋群に大きな影響を与え、様々な身体的な悩みを引き起こすことがあります。これらの時期に骨盤底筋の働きが低下する主な原因とその影響について解説します。
出産が骨盤底筋に与える影響
出産、特に経膣分娩は、骨盤底筋群に物理的なダメージを与えます。
- 筋肉の伸長と損傷: 出産時に赤ちゃんが産道を通る際、骨盤底筋は限界まで引き伸ばされます。これにより、筋肉の組織が損傷したり、神経が引き伸ばされたりすることがあります。
- 帝王切開の影響: 帝王切開の場合でも、妊娠中に増大した腹圧が継続的に骨盤底筋に負荷をかけており、筋力の低下につながることがあります。
- ホルモンの影響: 妊娠中はリラキシンというホルモンが分泌され、骨盤の靭帯や関節が緩みます。これは出産をスムーズにするための働きですが、骨盤底筋へのサポートが弱まることにもつながります。
出産後、これらのダメージが回復しないと、尿もれ(腹圧性尿失禁)や骨盤臓器脱といった症状を引き起こすリスクが高まります。
更年期障害と骨盤底筋の関係
更年期は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少する時期です。このホルモンの減少が骨盤底筋に影響を与えます。
- コラーゲンの減少: エストロゲンは、筋肉や結合組織の弾力性を保つコラーゲンの生成に関わっています。エストロゲンが減少すると、骨盤底筋やその周りの組織のコラーゲンも減少し、筋肉の弾力性やハリが失われ、緩みやすくなります。
- 血流の低下: エストロゲンの減少は骨盤周りの血流も低下させ、筋肉の栄養供給を悪化させ、筋力の低下を加速させます。
これらの変化により、骨盤底筋が弱体化し、更年期以降に尿もれや頻尿、骨盤臓器脱などの症状が顕著になることがあります。
骨盤底筋の働きと女性特有の悩みの解決
骨盤底筋を強化することは、出産後や更年期以降の女性の悩みを軽減するために非常に重要です。
-
-
-
尿失禁の改善
骨盤底筋を鍛えることで、尿道括約筋の働きが強化され、咳やくしゃみなどで尿が漏れる腹圧性尿失禁の改善が期待できます。
-
-
-
-
骨盤臓器脱の予防と改善
骨盤底筋が臓器をしっかり支えることで、子宮や膀胱などが下垂するのを防ぎます。
-
-
-
-
性機能の維持
骨盤底筋を鍛えることで、骨盤内の血流が改善し、性的な感覚の維持にもつながります。
-
-
-
-
姿勢の安定
骨盤底筋は、体幹のインナーマッスルと連携しているため、鍛えることで姿勢が安定し、腰痛の予防にも役立ちます。
-
このように、骨盤底筋トレーニングを日常生活に取り入れることは、女性が年齢を重ねる中で直面する身体の不調を改善・予防するために非常に効果的なセルフケアとなります。